「勝つ」ということ

最近、「勝つ」ということについてよく考えます。
95年に剣道を再開した当初、試合に出ても全く勝てず、
剣道ってどうやって勝つんだったっけ?と悩みも深かった頃、
剣道がすごく苦痛に思えた時期がありました。
ちょうど同じ頃に、4段の昇段審査に続けて何度も失敗し、
試合にも勝てない、審査にも通らない、そんな自分の剣道に
嫌気が差した頃でした。


稽古をしてもきついだけ・・・。
稽古会の会場の近くまで車で行って駐車場で中々踏ん切りがつかず、
挫けてそのまま稽古をせずに帰宅するなんてこともありました。
何かを特に目指しているというわけではなく、
それでも、試合に出れば試合に勝ちたい。
審査を受ければ昇段したい。
そんな欲目があるだけで、剣道から何かを得ているという実感もありませんでした。
あれから10年・・・色々と考えつつ剣道に取り組んできましたが、
最近改めて思うのです。
剣道はやはり「勝つ」ことが大切だと。
以前は負けてばかりだった大会で勝ったり負けたりするようになった辺りから
「強い」ということはどういうことなのかということについて漠然と考えていたのですが、
先日、毎年3月に開催される大野城市月曜稽古会の大会で
3段の2刀の選手と試合をした時に明確に感じたのがこのことでした。
この大会には独自ルールがあります。
3段以下の選手は自己申告でハンディキャップを取ることができるのです。
私の相手の2刀の選手もハンディキャップをとりました。
そのため、相手が1本先取した状態から試合が始まりました。
試合時間は5分。
この状況で勝つためにはどうしたらいいのか。
とりあえず時間内に一本を取り返さなければ話にならない。
実は、私はこの試合に臨む前にある決意をしていました。
「勝つ」ということにこだわってみようと決めていたのです。
緒戦を一本勝ちで勝ち、2試合目で迎えたこの状況で思ったのは、
日ごろ稽古の際に、こんな心理状態になったことは無いなということでした。
勝ちたいと思っていたわけではないのですが、「勝つ」ことを前提に考えていました。
そうすると、自然と「とにかく、一本を取る」という強い気持ちがわいてきたのです。
2刀なので、不用意な一本を食らえばそこで負けです。
かといって思い切って攻めていかなければ一本を確実に取るのは難しい。
そこで、相手のラッキーパンチを警戒しながら試合時間一杯攻め続けました。
結果は一本をとることはできず敗退しましたが、
不思議なことに勝てなかった悔しさは残りませんでした。
負けず嫌いの自分にとっては驚くべきことです。
この試合ではっきりと感じました。
私は、日ごろ稽古の際に「勝つ」ということを全く意識できていない。
気持ちよく相手を叩けたら満足し、沢山叩かれたら悔しいと感じているだけだ。
この一本が決まらなければ勝てないと思って技を繰り出してはいない。
「勝つ」と思って一本を取りに行っているわけではない。
技がどうとか、理合がどうとか、それはそれで大事だと思います。
先々の先の技を目指すことも大事だと思います。
でも、まず最初に、相手と向かっている時の心の状態ができていなかったら、
その状態で何をいくらやってもだめなのじゃないかと・・・。
30年近く剣道をやってきて、いまさらそんな事に気がつくなんて(T_T)
「勝つ」とは生き残ること。
生き残るためには勝たねばならない。
限られた時間の中で一本を確実に取るしか勝つ方法がない、
そんな切迫感を乗り越えることで、このような勝つことへの意志が養われるのかなと。
そしてその意志を養うことができた人間が強いのかなと。
本当の「強さ」とは生き残るという強い意志を持つことができるということ。
転じて考えれば「勝つ」という強い意志を持つことができるということ。
死にたくないと思えば負けたくないとなり、
負けたくないとなれば、手段を選ばず勝とうとする。
もう少し理性を失えば、安全に勝とうとする。
それでは「勝つ」という強い意志というよりも
「負けるかもしれない」という恐怖の感情が心を強く支配してしまいます。
そうなると四戒が生じて、勝つことはますます覚束なくなる。
死に対する恐怖を乗り越え、平常心で勝負に臨み、捨て身の業を繰り出す。
生きることへの執着を捨てたところにしか生き残る道が無い時に、
生きることへの執着を捨てることができるか。
捨てたところで正々堂々と戦い、結果的に勝つ。
そんな正々堂々の勝利を目指して取り組んでこそ、
本当の意味での剣道に近づくことができるのかもしれません。
たまたまの勝利ではなく、強い意志の結果として勝利を得る。
勝負を超越して健康維持のために剣道に取り組む。
もちろん、それは十分ありだと思います。
それでも、強い意志を養うことが健康に与える影響は大きいでしょう。
そういう意味で、健康維持のために取り組む剣道であっても
大いに「勝つ」という意志にこだわるべきかもしれません。
それ以外の剣道では、「勝つ」ことへのこだわりを必ず持って
「勝ち」につながる全ての打突の瞬間に
「勝利への一本」の意志をこめて取り組むことが、
結局は上達への早道なのかなと思います。
戸締り用心火の用心、一日一善。
健やかな精神は健やかな肉体に宿ります。
さぁ、稽古しましょう!
それでは、また土曜日に
いつもの武道場でお会いしましょう。

この記事を書いた人

剣道錬士六段 ザイツゴロウ