メイン

2006年11月10日

『腰と丹田で行う剣道』 島津書房


腰と丹田で行う剣道
腰と丹田で行う剣道
posted with amazlet on 06.11.10
森田 文十郎
島津書房
売り上げランキング: 391750

この本をまだ読んでいない方は、ぜひ読んでみることをお勧めします。
私は、ちょうど「次のステージ」に進むためには、何をどうすればよいのかと悩みに悩んでいた2005年の今頃の時期にこの本と出会いました。以来、ほぼ2年かけて、この本に書かれている理法を実践する努力を続けてきました。そして、今強く感じているのは、森田文十郎先生の洞察力がいかに素晴らしいものであったかと言うことです。

どれほどの刺激を受けたかと言えば、この本に書かれた内容に感動し、触発されて、剣の完全操作法の実践について思ったことを「打突のメカニズム」というタイトルで記事にして、そこに書いたことを、これまで2年近く忠実に実践してきたほどです。

この本に出会うまで、私は自分の打突を気剣体一致の水準に引き上げ、更に一拍子にするために、手の内の矯正、手首の動きの訓練、左こぶしの位置の矯正、重心を安定すること、ひかがみを軽く伸ばすこと、左足のかかとを上げすぎないこと、左こぶしの始動と右足の始動とのバランスをとること、出足を強化すること、竹刀の振り方の工夫、踏み込みと打突の瞬間の一致、打ち抜けること、残心で気を抜かないこと・・・などなどと、ひとつひとつ自分の矯正ポイントを意識しながら取り組んでいました。

ところが、ひとつ意識すると他がお留守、そこを意識すると別のところがお留守と、どこかに意識が行く度に他の何かが意識から外れてしまうという苦悩にさいなまれていたのです。

それが、この本に書かれている剣の完全操作に関する洞察に出会ったことで氷解してしまいました。
なすべきことは全て「一連の動作」の一部である。というのがポイントです。自然の流れに従うのです。

これまで沢山の複雑な動きの総合としてイメージしていた一拍子の打突が、この本を読むことで、全く違ったイメージに置き換えられました。まさに革命的な瞬間を味わった一冊です。

鍛錬された呼吸法によって丹田に蓄えられた気のエネルギーが源泉になるのは言うまでもありませんが、その丹田に蓄積した気を更にひかがみを通して左足のかかとにまで充満させます。
こうして十分に気が満ちた状態でスタンバイした左足の湧泉辺りを踏むことを初動にして、後は体の物理的なメカニズムに順次気を伝えて行き、順番に動かしていくことで、最終的に無理なく一拍子の打突に結実させて、当然の帰結として十分な残心につなげつつ、次の動きへのエネルギーをためたままの形で完結する。そんな一連の動きをシームレスに、いわゆる「一拍子で」行う。そうすることで、そこには澱みも滞りもなくなり、一瞬の機を捉えて意を決した一直線のエネルギーが満ちた「捨てた」打突となる。

この本と出会えたおかげで、私はささやかな階段をひとつ上がることができたと自信を持って言うことができます。この本から得られることを思えばこの価格は決して高くはありません。

剣の理法を求めるならば、一拍子の打突の実践を支える理合いとして、これ以上のものはないと私は確信しています。ぜひこの本は読まれてください!


2006年10月19日

『剣道の法則』 体育とスポーツ出版社


剣道の法則
剣道の法則
posted with amazlet on 06.10.19
堀篭 敬蔵
体育とスポーツ出版社
売り上げランキング: 279,665

以下は九州松下剣友会で日ごろからお世話になっている宮城県出身の佐野さんに頂いた堀篭範士の書が入った手ぬぐいです。

tenugi_horigome.jpg


この本は、その佐野さんの師匠である堀篭敬蔵剣道範士九段の著書です。

2003年に佐野さんから剣友会のメンバーに向けて、この本をすすめる旨のメールが発信された際に私も購入して読ませていただきました。
当時ちょうど、「剣道においては事理一致の修行が大切だ」との考えに触れる機会が増えていた私にとって、では剣の理法について学ぶには具体的にどうしたらよいのかということは切実な問題でした。
これと言ったよい方法も見えず、もんもんと悩んでいた時期でした。
ですので、この本との出会いは、まさに「渡りに舟」に感じたことを覚えています。

本の中で堀篭範士も触れられていますが、現代では剣道の専門家でない限り、剣の「理」を専門書から学ぶ機会はなく、かといって口伝してくれる師匠にめぐり合うこともかなわず、剣の理法を習得することが非常に難しくなってきています。
「剣道の法則」と銘打って、奥深い剣の哲理に関する多くのエッセンスを、誰もが理解しやすい平易な文体でつまびらかにしてくれているこの本は、そんな現代の剣道事情において貴重かつ必読の一冊であることに疑いの余地がないでしょう。

自分の技量に応じた剣の哲理を身に付けたいと願う剣士や、昇段審査の際の学科試験のあり方に疑問を感じる剣士にとっては、本当に参考になる一冊であると思います。

工夫のない稽古から得られるものが少ないことに気づく剣士が少ないことは悲しい事実ですが、幸運にもそのことに気づいたとして、実際に工夫をしようと試みた時に、工夫の取っ掛かりそのものが得られず苦しむ羽目に陥る剣士が多いのもまた事実のようです。私が実際それでした。

この本を通じて、道場の外で剣の理法を研究し、そこで得られた自分なりの理解を、今度は日々の道場での稽古における「事」の修行の中で試すことができる。

私の稽古の質はこの本との出会いで画期的に向上しました。
この本に著されている内容を礎にして日々の稽古でたゆまず工夫するならば大いなる収穫が得られること請け合いでしょう。

著書の中に以下のような一文があります。

--------------------------------------------------------------------------

剣道の修行を通して人間としての道を学ぶ。人間の道とは何かと言えば「当たり前のことを当たり前にする。」ことである。これは「言うは易く行なうは難し」ことではあるが、人間としてもっとも大切なことである。

--------------------------------------------------------------------------

かつて剣術修行者にとって当たり前であったことの中には、現代ではすでに当たり前でないことも沢山あるでしょう。「確かな師匠を得にくいこと」がその典型的なひとつであると思います。
目の前に正師を置いて日々の修行に取り組めるのであればこのような書物は不要かもしれません。
が、そうでないならばこの本を座右に置いて、この本を師匠と思い、そこに述べられている一字一句を咀嚼して稽古すると良いと思います。ぜひお試しください。


2006年06月23日

『宮崎正裕の剣道』 スキージャーナル社




宮崎正裕の剣道
宮崎正裕の剣道
posted with amazlet on 06.06.23
月刊『剣道日本』編集部
スキージャーナル (2003/09)
売り上げランキング: 22,474
おすすめ度の平均: 4.33
4 宮崎流の「竹刀」で勝つ剣道
5 悩める有段者へ
4 基本を見直せます


平成2年11月3日日本武道館 私は生まれて初めて剣道全日本選手権に出かけました。
その年の覇者が宮崎正裕(当時)6段でした。それは、彼が始めて賜杯を手にした年でした。

翌年には、当時お世話になっていた杉並大義塾道場の故中村太郎先生、現在三田剣友会でお世話になっている戸田忠男先生、現在一橋大学剣道部師範の千葉仁先生、若くして中国大陸での列車事故でお亡くなりになった高知の川添哲夫先生に続いて5人目となる2度目の賜杯を、それまで誰もなしえなかった「連覇」という最高の形で手にしました。

その後も平成5・8・10・11年に、2度の連覇を含めて6度の大会制覇という前人未到の大記録を打ち立てた宮崎正裕氏は、まさに平成を代表する最強剣士です。

この言わずと知れた平成最強剣士、宮崎正裕教士7段の著書が「宮崎正裕の剣道」です。

このように紹介すると、数多くの大会で勝利してきた著者の作品だけに、試合に勝ちたい人におススメ!と言いたくなるところですが、実際は違います。

剣道の稽古に取り組む際の理業両面でのポイントが驚くほど丁寧に解説されています。

輝かしい実績を残し続けてきた剣士だけに、技術解説部分が充実しているのはもちろんですが、理論に走りすぎることなく、かといって単に実践を強調するだけでもなく・・・その両面からバランスの取れたアプローチをすることで、剣道稽古の要諦に関する解説を試みているという印象です。

非常に読みやすいのも特長でしょう。

現在進行形で剣道に取り組んでいる全ての人が一読されることを期待して止まない奥の深い一冊です。
宮崎先生が、輝かしい実績の裏で、その実績相応の深い剣道研究に取り組まれていたことを想像させる一冊です。

特に幼少年の剣道指導に当たっている中堅剣士の皆さんは、この本を座右において、指導する幼少年と共に、改めて基本部分から創意工夫の稽古に取り組まれることで師弟同業を実践されることをおススメします。あの持田盛二範士でさえ、基本の習得に50年掛かったといわれるほど剣道の基本は奥深いものですので、手抜かりなく取り組みましょう。

研究をベースに自分なりの工夫を試みる。
そんな姿勢の大切さを学ぶことができるような気がします。
生涯剣道修行という考えの指導的立場の方には特にお勧めの一冊です。